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株式会社あすなろ印刷
「水を絞る+環境対応」 油性印刷の可能性に挑戦(2023.7.5 印刷ジャーナル掲載)
(株)あすなろ印刷(本社/鹿児島市城西2−2−36、加世堂雅美社長)は、JapanColor運用を機に、改めて「水を絞る」という「オフセット印刷の原理原則」に立ち返り、印刷品質の向上と作業効率の改善に取り組んできた。その効果を一段と高いレベルに引き上げたのが、エコスリーの現像レスプレート「アズーラ」による速乾印刷だ。「廃液削減」による環境対応とコスト削減を実現する同社。今回、水を絞るための一連の取り組みと、その効果について取材した。
「印刷人は『マイスター』でなければならない」
同社の創業は昭和33年。熊本県水俣市で謄写印刷、いわゆる「ガリ版印刷」の「あすなろプリント」として起業した同社は、その後、創業家である加世堂家の出生の地であり、鹿児島県の北西部に位置する出水市に事業拠点を移し、地域に根ざした事業展開で大きな成長を遂げてきた。
若い頃から自社の「理想」を追い求め、印刷技術にも敏感だったという加世堂社長は、drupaをはじめとする海外機材展の視察にも積極的に参加し、その技術革新をいち早く自社に取り入れることで欧州型のビジネスモデルを追求してきた。「印刷人もその道を極めた『マイスター』でなければならない」。これが加世堂社長の印刷哲学である。現在、菊全判8色両面機、菊全判5色機、A全判4色機、菊全判2色反転両面兼用機の全19胴を設備し、冊子を中心とした頁物の仕事をメインとしている。
「人がやりたがらない仕事をする。とくに工程数が多い仕事をメインに手掛けている」と語るのは専務取締役の加世堂雅樹氏。折りはもちろん、無線綴じ、中綴じ、糸かがり、ミシンなど、加工のほとんどを内製できるのも同社の強みで、「こんな辺鄙(へんぴ)な田舎で、菊全19胴と多彩な加工設備、そして24時間2交代制を実施している印刷会社はあまりないだろう」と笑顔で語る。
JapanColor運用と速乾印刷
学校法人日本プリンティングアカデミー出身の加世堂専務は、当時の学校長だった浜照彦氏や中村竜氏、曺于鉉氏といった恩師に指導を仰ぎながら、2000年頃から前工場長とともに品質管理体制を強化する中で、色の業界標準「JapanColor」運用に着手する。「水を制する者はオフセット印刷を制する」という格言があるように、印刷トラブルのおよそ7割が湿し水に起因すると言われているが、同社でもJapanColorの運用を機に、改めて「水を絞る」という概念を突き詰めていったという。
当初、同社が実践してきた印刷設定でJapanColorをターゲットにすると、明らかに濃度が高いことが判明。そこでまず、ノンアルコールへと移行し、給湿液をはじめとした資材の見直しを実施するとともに、湿し水循環濾過装置を設備。さらに印刷機の保全・メンテナンスの技術をブラッシュアップしていくことで、試行錯誤しながらも「JapanColorをターゲットとした、さらに水を絞れる環境」を構築していった。
これら一連の印刷工程の見直しによって、一定の成果をあげた同社だが、さらに水を絞るための手段として、プレートの見直しに着手する。そこでひとつの条件となったのが「廃液の削減」だ。結果、その最有力候補となったのが、エコスリーの現像レスプレート「アズーラ」である。
「プレートの選定においては、『水を絞る+環境対応』を前提条件とした。完全無処理版については、機上現像にともなう印刷機への影響、そして視認性が最大の懸念点だったことから、そもそも選択肢には入れなかった。『速乾印刷』をコンセプトにかかげるガム処理タイプのアズーラが、まさに当社の狙いに合致するものだった。廃液の削減はコスト面でも経営メリットをもたらす」(加世堂専務)
高精度のサポートを評価
「アズーラが速乾印刷に適している」。この理由はシャロウバレーと呼ばれる砂目の特長にある。浅くて細かな均一の砂目構造により水を絞れ、適正な水量・インキ量で印刷でき、油性インキでの速乾印刷を実現できるというわけだ。本来は水とインキを絞るのがオフセット印刷の原則であることは誰もが知っていること。乳化を最大限に抑えて印刷すれば、ドライダウンも減り、網点も美しくなり、彩度も上がる。当然の理論だ。
ただ、そこには「本来あるべき印刷機の姿に仕立て直さなければいけない」、いわゆる日々の機械メンテナンスが重要になってくる。ここを理解することでアズーラは「プロ仕様のプレート」ということになるし、理解できなければ、ただ「刷りにくいプレート」となってしまう。「水を絞る」というオフセット印刷の原理原則を踏襲し、そのためのメンテナンス改善を幾度も重ねてきた同社にとって、「アズーラによる速乾印刷」のハードルはそれほど高いものではなかったようだ。
ただ、プレートという中間資材を変更することに対して、現場ではやはり複雑な思いもあったようだ。橋口昌樹工場長は、「やはり不安も大きかった。結果的には、エコスリーを信じてすべてを受け入れ、周辺資材も大幅に変更した」と当時を振り返る。
このことついて、エコスリー九州支店の緒方浩司支店長は「ベテランで経験豊富な工場長らが我々を信じてすべてを受け入れてくれた。多くを語らないが、そこには計り知れないほどのジレンマもあっただろう。それだけに我々が持つ知見のすべてを提供して全力でサポートにあたった」と振り返る。
加世堂専務もエコスリーの精度の高いサポートに対して「最高だった」と評価する。
「立ち上げ時は2週間程、濃度、グレーバランス、印刷テスト、機械メンテ、JapanColorへのアプローチなど幅広いサポートには非常に満足している。我々は、新たに提示された明確なターゲットに合わせていくだけで、高次元の速乾印刷技術を手に入れることができた。また立ち上げ後もリモートを活用し、導入後の運用・改善といった面でサポートしてもらっている」(加世堂専務)
アズーラ速乾印刷の効果
アズーラによる速乾印刷の効果は、すぐに数字で表れた。恒松茂樹工場長は「まず、以前は35だった水の送り量が、一気に20まで下がり、いきなり水が切れた」と振り返る。
また、橋口・恒松両工場長は、「アズーラでさらに水が絞れたことでファンアウトがなくなり、結果として機械構造上、見当が入りにくいとされるダブルデッカーの菊全判8色両面機『J Print』でも見当が入るようになった」と話す。同社では、アズーラ採用時にファンアウト補正ソフトも導入しているが、現在はまったく使用していないという。
耐刷性は6万枚〜10万枚で、スペック通りの運用を実現しており、予備版のコストと版交換作業の手間が解消されるというメリットも享受している。
一方、アズーラによる速乾印刷の実践で、印刷機の回転数を上げられるという効果も生んでいる。新たに導入したA全判4色機は、最高1万6000枚/時のスペックに対し、常に1万4000〜1万5000枚/時で安定稼働している。水を絞ることで紙離れが良くなり、ファンアウトがなくなったことも寄与していると推測できる。
パウダー量削減にも着手
同社が次のステップとして着手しているのがパウダー量の削減である。「繁忙期に印刷機のトラブルがあると致命傷になりかねない。昨年、実際にそんなトラブルもあった。これはパウダーに起因する部分もあると推測できる」と加世堂専務。パウダー量削減の手法については、エコスリーユーザー会で知り合った(株)藤和の伊藤英隆工場長からヒントをもらって実践しているそうだ。まだ途上段階のようだが、現在でも40〜50だったパウダー量が20程度まで削減できているという。エコスリーユーザー会の横の繋がりが印刷技術向上に向けた大きな原動力となっていることがわかる事例である。
同社は2021年に鹿児島初のグリーンプリンティング(GP)認定を受けている。加世堂専務は、「印刷物や紙の価値をもっと訴求していきたい。その中で、印刷が環境に優しく、持続可能なメディアであることをもっと訴えていきたい」とし、SDGs経営への想いを強めている。
また、「油性印刷でどこまでいけるか挑戦していきたい」と加世堂専務。アズーラによる速乾印刷をさらにブラッシュアップしていくことで、今後、紙以外、例えばアルミ蒸着への印刷などの可能性も視野に入れているようだ。
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