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株式会社第一印刷
第一印刷(福島)「挑戦」に向けた選択(2024.3.5印刷ジャーナル掲載)
「アズーラ」で技術を磨くユーザー間の横の繋がりに期待
100年企業を見据えた「新たな挑戦」としてブランディングに着手する(株)第一印刷(本社/福島県福島市岡島字古屋舘1−2 福島工業団地内、古川幸治社長)。そこに派生する生産改革の取り組みとして昨年4月、印刷現場の意識と技術の向上を目的に、エコスリーの現像レスプレート「アズーラ」を全面採用した。速乾印刷も視野に入れた運用を目指す一方で、これをきっかけに、ユーザー会や「工場長サミット」といったエコスリーのユニークな取り組みにも積極的に参画し、その「挑戦」に厚みを持たせていく考えだ。
強みは「お客様に寄り添える人材」
同社の創業は昭和26年。女性が会社を始めることが稀な時代に、達筆だった故・井場秋子氏が鉄筆を使い謄写印刷の個人事業を立ち上げたのが同社の原点である。現在では商業印刷分野を中心に、福島県を商圏とする地域貢献型の印刷ビジネスを展開し、売上のおよそ6割が官公需、その他が一般企業というバランスの取れた顧客層を持つ。
古川社長に「御社の強みは」と訪ねると、ずばり「人である」という答えが返ってきた。「様々な印刷商材を制作できることが強みではない。お客様の困り事や課題を解決できる能力、社員が自発的に考え、行動する企業風土こそが、当社最大の強みである」と語る。創造・挑戦・繁栄を社是とし、「地域貢献」や「地域おこし」という視点を常に意識してきた老舗の印刷事業が、クライアントにしっかりと寄り添える人材を育ててきたということだろう。
そして創業から73年を迎えた現在、同社では100年企業を見据えた取り組みとして、全社を挙げて新たな「ブランディング」に着手している。月に1度、製造工程のすべてを停止し、全社員が半日にわたって勉強会に参加するというから驚きだ。「『ブランディング』という言葉を使っているが、その本質は各自の独自性を養い、選ばれる存在になるためにはどうあるべきかを考え、議論し、学ぶ場である。選ばれる存在になれば、不当な価格競争に巻き込まれることもない」(古川社長)
そもそも、ブランディング強化の取り組みは、古川社長が(株)川俣町農業振興公社の取り扱う、福島の地鶏「川俣シャモ」に興味を持ったことから始まる。「顧客でもあった(株)川俣町農業振興公社は従業員20名程度の小さな会社ですが、川俣シャモは東京の有名料亭にも卸しており凄いことだと思う。数あるブランド鶏の中から、なぜ採用されているのかを考えることで、ブランディングの重要性を再認識させられた」(古川社長)
そこでまず同社は「顧客を知ること」から始めた。常務執行役員の山根克英氏は「とくに印刷現場はお客様との接点がない分、自分が制作した印刷物をお客様がどのように使うかを知らない。その情報を印刷現場も共有し、製造側からお客様のニーズを考えることができれば、印刷物に現場の感性を付与することができる。それは品質だけではなく、機能や納期に至る様々なニーズを汲みとることで、差別化の大きな原動力になる」と語る。
いまでは印刷現場、営業、デザインなど各部門間でお客様を中心とした対話が増え、同社が定義するブランディングの考え方が全社に浸透しつつあるという。「印刷業においても製販一体がブランディングの第一歩ではないだろうか」(山根常務)
採用決定を後押ししたアズーラユーザーの見学会
ブランディングによる新たな「挑戦」に乗り出した同社だが、そこに派生する生産改革として「刷版工程の再構築」というプロジェクトを推進。老朽化にともなうCTPセッターの更新において、無処理版への移行を前提とした機種検討に入っていたが、ある出会いがその選択に大きな影響を与えたという。
「IGAS2018のエコスリーブース(当時はアグフア)を訪れた際、社長になる前の岡本勝弘氏が熱心に我々の話を聞いてくれた。『おもしろい会社だな』というその時の印象が記憶に残っていたことから、プレートメーカーとして選択肢のひとつにエコスリーを加えるよう指示した」(古川社長)
それまでの流れから、当然ながら現場は無処理版に傾いていたわけだが、その考えを引き戻したのが、アズーラユーザーの見学だった。山根常務は、営業、現場を含めた10名を引き連れて(株)吉田印刷所(新潟県五泉市、吉田泰造社長)を訪問。そこで「これは何かが違う」と感じたという。
「吉田印刷所様を見学して、まず『我々はこのままで良いのか』という疑問が生まれた。『挑戦』というキーワードを掲げる当社にとって、印刷技術向上に寄与するプレート『アズーラ』に大きな魅力を感じた」(山根常務)
また、プリプレス工程を管理する改革推進室の早坂陽一室長も「当初、老朽化にともなう設備更新において『プレート変更=挑戦』という感覚はなかった。当社の運用において、いずれのプレートも『大差はない』と考えていたため、スペースや資材のことを考慮すると無処理版が私の中で優位だったのは確か。ただ、エコスリーには担当営業の姿勢からも『顧客を見て、知ろうという思考』が非常に強いという印象を受けた。そして、速乾印刷という技術的なアプローチを知り、そこではじめてプレートを変更することにメリットがあることを知った」と当時を振り返る。
また、製造側から見学会にも参加した企画制作・製造グループの石坂建一郎リーダーは、「アズーラは水幅が狭いため、印刷機のメンテナンスをしっかり行わなければならない。これを逆に捉えると、強制的にメンテナンスが必須になることで、印刷技術の向上に繋がるのではないかと考えた。また、機上現像の課題のひとつである視認性についてもアズーラは従来の有処理版と同レベル。さらに、水を『綺麗に保つ』という観点でもガム処理タイプが有利。検討段階では確かに機上現像による印刷機への悪影響を懸念していた」と振り返っている。これら一連の検討作業を終えた同社の決断は「アズーラ」だった。CTPセッターを更新した昨年4月から全面採用している。
エコスリーの迅速で柔軟なサポート
プレートをアズーラに変更後、印刷物の再現性についてクライアントから「良くなった」という評価を得ている。また、早坂氏も品質について「画線部の再現がシャープになった」と評価し、現像レスの優位性を実感しているという。同社では「まだ速乾印刷には取り組んでいない」としているが、エコスリーによると、「これは水が切れている証拠であり、アズーラ採用によって、すでに速乾印刷に近い域に達している」と評価する。
それは工場全体の生産性の向上という形ですでに証明されている。「後加工から見ても乾燥時間の短縮は顕著である。いままでは半日くらいの乾燥待ち時間を要したチラシの仕事も、いまでは2時間程度で断裁工程に移行している」(石坂氏)
「アズーラが速乾印刷に適している」。この理由はシャロウバレーと呼ばれる砂目の特長にある。浅くて細かな均一の砂目構造により水を絞れ、適正な水量・インキ量で印刷でき、油性インキでの速乾印刷を実現できるというわけだ。本来は水とインキを絞るのがオフセット印刷の原則であることは誰もが知っていること。乳化を最大限に抑えて印刷すれば、ドライダウンも減り、網点も美しくなり、彩度も上がる。当然の理論だ。
ただ、そこには「本来あるべき印刷機の姿に仕立て直さなければいけない」、いわゆる日々の機械メンテナンスが重要になってくる。ここを理解することでアズーラは「プロ仕様のプレート」ということになるし、理解できなければ、ただ「刷りにくいプレート」となってしまう。「水を絞る」というオフセット印刷の原理原則を踏襲し、そのためのメンテナンス改善を行えば、「アズーラによる速乾印刷」のハードルはそれほど高いものではないようだ。
前記のように、同社の強みは「人」である。そして今回の設備投資も岡本社長との出会いをきっかけに始まっている。その過程においても、エコスリーの迅速で柔軟な対応が同社の選択決定を左右した。
石坂氏は、「我々の困り事をエコスリーの担当営業に相談すると迅速に対応してくれるし、プレートの運用はもちろん、印刷についても品質評価方法などを手厚くサポートしてくれる。現場として非常に安心できる環境を提供してくれている」と評価する。
さらに、エコスリーのユーザー会の存在も同社に期待と安心感を促している。
「ユーザー会には一度出席したが、皆さんユニークで気さくな方ばかり。また何らかに特化している会社が多いように感じた。多くのヒントや刺激をもらう機会として非常に期待している。また、『アズーラ速乾印刷』というひとつの技術を共通の価値観とし、『工場の改善で印刷会社全体の変革を目指す』という同じ志を持つ印刷会社が集う『工場長サミット』には当社もぜひ参加してみたい。経営者ではなく、現場同士の繋がりを育めるユニークで他にない取り組み。現場が他社を知ることで、きっと刺激になるはず」(山根常務)
「新たな挑戦」を促す起爆剤に
同社では、アズーラ採用による環境対応や速乾印刷による品質向上について、とくにクライアントに積極的なアピールはしていない。「品質は良くなればクライアント側で気付いてくれる。やはり、当社が100年企業に向けて、印刷現場の意識と技術の両方を底上げしていくという『新たな挑戦』を促す起爆剤になればと考えている」
同社の印刷設備は、菊全判4色機1台、菊半裁4色機1台、菊半裁2色機1台、封筒印刷用の軽オフ以外は、KOMORI製である。今後は、これら印刷機のメンテナンスを柔軟に効率良く実施するスケジューリングの構築を目指しており、とくに繁忙期でも安定した印刷機の稼働を実現させていく考えだ。
さらに、昨年は事業再構築補助金を活用して、フラットベッドUVプリンタ、レーザー加工機3台、カッティングプロッターも導入。紙以外のアクリルや木材などにも印刷できる設備に投資することで、困り事解決における提案の幅も広げていく。
印刷産業が「アフターコロナにおける印刷経営とはどうあるべきか」を模索するなか、同社はこれまで通り、印刷にこだわることなく、お客様に寄り添い、困り事をひとつひとつ解決していくことに経営資源を集約し、会社全体でこの理念や意思をより理解し、共有できる環境を整えていく考えだ。アズーラ採用による技術向上は、そのブランディングに向けた「挑戦」を支える一部の機能として期待が高まっている。
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