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大日印刷株式会社
大日印刷 「本づくり+高精細」でブランド強化へ (2023.4.25 印刷ジャーナル掲載)
大日印刷(株)(本社/愛知県額田郡幸田町大字坂崎字石ノ塔46―1、太田英伸社長)は、水を「絞る」「綺麗に保つ」というオフセット印刷の原理原則を追求することで、品質を向上させながらもコスト削減と作業時間短縮という2つの効果を生み出している。そのベースに同社の「とがった技術力」があり、それを支える資材として重要や役割を果たしているのが、アグフア(現エコスリー)の現像レスプレート「アズーラ」だ。いまだ「高精細印刷の大日」として知られる同社。今回、その挑戦と成果を取材した。
「高品質な本づくり」で成長
大日印刷の創業は1955年。文具の小売事業を手掛ける「大日商会」として産声をあげてから今年で68期目を迎えた総合印刷会社である。一般商業印刷を主軸とし、売上のおよそ6割が仲間仕事だという同社だが、その事業拡大の過程において成長エンジンとして機能してきたのが「高品質な本づくり」だ。同社は、現場の「尖った技術力」に裏付けされる「高精細印刷の大日」として知られる存在で、本づくりにおいても中綴じ製本、無線綴じ製本、PUR製本を設備したワンストップソリューションで、高画質で高級感を表現するカタログや精密さを求められる医学書、忠実な色再現が重要な美術図録など、シビアな品質要求に応えることで、その地位を確実なものにしてきた。コロナ禍においては、38歳の3代目・太田社長が先頭に立ち、Webマーケティングをからめた「本づくり」特化のブランディング戦略と、攻めの人材雇用に踏み切った結果、「今期の業績はコロナ前を上回る勢いだ」(太田社長)という。
一方、日本印刷産業連合会が制定する印刷産業界の環境自主基準をクリアした企業として認められるGP(グリーンプリンティング)認定の取得や、経済産業省が選出する「健康経営優良法人」に2年連続で認定されるなど、SDGs経営を積極的に取り入れている印刷会社である。
「もっと絞って、もっと速く」
同社の真骨頂とも言える「尖った技術力」の源は、水を「絞る」「綺麗に保つ」という概念に集約されている。
では、なぜ水を絞るのか。取締役製造部の小林広明ゼネラルマネージャーは「一般的に品質とコストは相関関係にあるが、水を絞るというオフセット印刷の原理原則を追求することで、品質を向上させながらもコスト抑制をもたらす。挑戦しない選択肢はないのではないか」と訴える。
同社では、この水を「絞る」「綺麗に保つ」ということを実現するにあたり、段階を経て資材を見直してきた。その取り組みと成果を時系列で紹介する。
まず、同社では「脱アルコール」に着手。当然、刷りにくくなり、給湿液の添加量を上げざるを得ない。結果、単胴配列の印刷機を使用していたため、ファンアウトが発生し、なかなか見当が合わない。そこでオリジナルの給湿液を日研化学とともに開発し、アルコールゼロ、給湿液添加量を従来の半分以下にまで削減することに成功。結果、年間100万円以上のコスト削減効果をもたらした。
次に、水を切った成果の判断基準として「乾燥時間」に着目した同社では、刷版使用量を削減する狙いで「ドンテン」を積極的に取り入れた。この段階で乾燥時間は15〜20分程度(92〜93%を基準に)。これではまだオペレータが見当合わせ、色合わせをしても時間を持て余す状態だった。
「もっと絞って、もっと速く」。その手段として2010年、アグフアの現像レスプレート「アズーラ」の全面採用に踏み切っている。
「半信半疑でテストしてみた。従来版とアズーラを使って4色印刷を同条件で汚れるところまで水を絞ってみた結果、従来版は20まで絞った段階で汚れ、アズーラは16まで絞れた。この2割の差を目の当たりにしたことで、迷うことなくアズーラの採用を決めた」(小林マネージャー)
「アズーラの意義と価値」、「それを支えるサポート体制」
この段階で、乾燥時間は10分を切っている。「アズーラが速乾印刷に適している」。この理由はシャロウバレーと呼ばれる砂目の特長にある。浅くて細かな均一の砂目構造により水を絞れ、適正な水量・インキ量で印刷でき、油性インキでの速乾印刷を実現できるというわけだ。本来は水とインキを絞るのがオフセット印刷の原則であることは誰もが知っていること。乳化を最大限に抑えて印刷すれば、ドライダウンも減り、網点も美しくなり、彩度も上がる。当然の理論だ。
ただ、そこには「本来あるべき印刷機の姿に仕立て直さなければいけない」、いわゆる日々の機械メンテナンスが重要になってくる。ここを理解することでアズーラは「プロ仕様のプレート」ということになるし、理解できなければ、ただ「刷りにくいプレート」となってしまう。当然ながら、大日印刷は前者であり、「アズーラによる速乾印刷」を問題なく実現したわけだ。
一方、水を「綺麗に保つ」という観点では、機上現像の完全無処理版より、ガム処理タイプが有利だという。
「もちろん機上現像は多くのメリットをもたらすことは理解していたが、テスト段階で版自体の経時劣化と着肉不良が問題となった。4色/4色を10台くらいテストしてみたが、水のタンクに異物が混入する恐れもあり、機械や品質への影響を懸念した。水を『綺麗に保つ』という面からも当社ではガム処理タイプのアズーラがベストであり、機上現像が進化した今でもそれは変わらない」(小林マネージャー)
また、アグフアのサポート体制についても小林マネージャーは「速乾印刷を実現している印刷会社の見学や近年ではオンラインによる工場長サミットの企画などを通して、コロナ禍でも様々な情報を収集することができた」とし、ユーザー間を繋ぐ場を提供するアグフアの取り組みを高く評価している。
高精細でインキ使用量削減
資材を見直すたびに乾燥時間は短くなっていく。ただ、ここで満足しないのが「大日スピリッツ」だ。「さらに水を絞れないか」と考え、今度はオリジナルのインク開発に乗り出し、1年後には乾燥時間6〜7分を達成。さらにオリジナルの給湿液とインキをともにブラッシュアップしていくなかで、とうとう乾燥時間は5分に。
「ようやくオペレータの『待ち』がなくなり、結果として年間の刷版使用量5万版のうち、『ドンテン』によって3500〜4000版の削減を達成した。水を絞って高品質を追求する過程で、コスト削減と作業時間の短縮という2つのメリットを得ることができた」(小林マネージャー)
同社は、1社からのみ給湿液を購入しているが、その量は菊全4台に対し、2〜3週間で20リットル程度。その仕入れ先も「本当に当社からだけ?」と疑うほど、その使用量は少ない。
前述の通り、同社は「高精細の大日」としても知られる存在。そのきっかけとなったのはアズーラとともに採用した「スブリマ」である。これは、AMとFMの技術を新たな次元で融合したXMスクリーニング。従来のAMスクリーニングと同様の刷り易さのままで最高340線の高精細出力を実現するもので、同社ではスブリマ240線を標準としている。「スブリマがなければ、現在の『高精細印刷の大日』はなかった」(小林マネージャー)
さらに、このスブリマの成果をもとにFMスクリーニングにも挑戦。ただ、一筋縄ではいかなかったようだ。
「当初、FMスクリーニング印刷を行う際、タンクの水を新品に入れ替えても1週間で劣化し、網点の変化で同じ色が出
せなかった。菊全4台の水を毎週末に入れ替える作業も時間のロスに繋がっていた。そこで湿し水濾過装置を導入。水を絞ることで濾過装置のフィルター寿命も、メーカーが半年というところ、最大1年半交換なしの実績もある。いまやFMスクリーニングで増刷や色校正まででき、他社には真似のできない大きな強みとなっている」(小林マネージャー)
高精細印刷は、理論的に線数が上がるほどインキ使用量は減少する。同社でもFMスクリーン印刷時のインキ使用量は、C=20〜25%、M=25〜35%、Y=20〜25%、K=10〜15%削減した状態でも同じ色を出せる状態にあるという。ただ、メーカーによると「理論的にはそうなるが、なかなかその効果を引き出せているケースは少ない」という。それだけ同社の印刷工程が安定しているということだろう。
「本づくり」のブランディング強化へ
高い印刷技術を誇る大日印刷。それだけに、その技術継承を真剣に考える時にきていると小林マネージャー。その「尖った技術」を継承し、さらに後進に継承していく役割を担うのが、オペレータ歴25年の製造部印刷課・池田尚希マネージャーだ。
「水を絞った速乾印刷は、当社では当たり前の概念。その実現には機械メンテナンスが重要であり、それを敬称していくことが最も難しいこと。これを次の世代に継承いくのが私の役目だと認識している」と話す。
取材の最後に太田社長は、自社の今後の方向性について次のような想いを語ってくれた。
「様々なニーズに応えながらも、自社が得意とする中ロットの本づくりに特化したブランディングをさらに展開し、『本づくりの大日』をさらに訴求していきたい。そのためにも製本工程を充実させながら、当社の技術と設備をフル活用できる体制を整備していく」
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